2023年度 第72回 朝日広告賞<一般公募・デジタル連携の部>受賞作品
2023年度 第72回
朝日広告賞<一般公募・デジタル連携の部>受賞作品

2023年度第72回朝日広告賞「一般公募・デジタル連携の部」グランプリは、岩波書店の課題『岩波 仏教辞典 第三版』を扱った作品。新聞紙面にスマホをかざしてARを起動、仏教用語を認識すると、ラップ調の読み上げ音声が再生され、音声を組み合わせたり、ビートを変えたり、新聞を囲んでセッションできたりする企画です。制作に携わった電通・第1CRプランニング局・クリエーティブ・ディレクション1B部・コピーライター・岩田奎氏、第2CRプランニング局・ブランド・エクスペリエンス5部・アート・ディレクター・浦野夏実氏、第2CRプランニング局・クリエーティブ・テクノロジスト・コミュニケーション・プランナー・福田篤史氏、アドブレーン・制作本部・モーションデザインセクション・ディレクター・大森廉氏に話を聞きました。

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電通・第1CRプランニング局・クリエーティブ・ディレクション1B部・コピーライター・岩田奎氏、第2CRプランニング局・ブランド・エクスペリエンス5部・アート・ディレクター・浦野夏実氏、第2CRプランニング局・クリエーティブ・テクノロジスト・コミュニケーション・プランナー・福田篤史氏、アドブレーン・制作本部・モーションデザインセクション・ディレクター・大森廉氏

「仏教用語は、かっこいい」がアイデアの出発点

グランプリ受賞のご感想は。

岩田:実は、グランプリの報せをいただいた前夜に、一般公募・新聞広告の部で入選(富士急行の課題「富士急ハイランド」を扱った作品 タイトル/卒業)という報せが届いていたんです。でもデジタル連携の部の結果が出るまで待とうと思い、他の3人にはすぐに伝えませんでした。結果的に、グランプリの報せと一緒に届けることができて良かったです。今作の制作に際しては、4人それぞれのこだわりや“謎のエネルギー”みたいなものを注いで、手間暇かけて作りました。そうやって無邪気に取り組んだ作品が評価されたことが何よりうれしかったです。

浦野:4人がそれぞれの力を出し切った作品で光栄な賞をいただけたことが、純粋にうれしかったです。

福田:かなり“攻めた”表現だったので、正直、グランプリまで行くとは思っていませんでした(笑)。でも面白いものができたという手応えがありましたし、メンバーの「たとえコンペでも、実際に動かせて遊べる状態で提出したい」という方針もいいなと思い、デジタル担当としてインターフェースの開発に取り組みました。今回はそこも含めて認めていただいた気がして、僕もうれしかったです。

大森:朝日広告賞への応募は今回が初めて。岩田さん、浦野さん、福田さんとタッグを組んだのも今回が初めてでしたが、4人で和気あいあいと、それぞれの個性を活かしながら取り組むことができました。その上グランプリまでいただけたのはうれしいです。

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どのような経緯で朝日広告賞に応募したのでしょう?

岩田:浦野と福田と僕は、今年で入社3年目の同期です。浦野と僕は、昨年に初めて朝日広告賞にトライし、一般公募・新聞広告の部で審査委員賞を受賞しました。それもうれしかったのですが、今年はさらに上を目指そうと、現業でおつき合いのあるアドブレーンさんの力を借り、大森さんとタッグを組みました。制作は新聞広告の部から始めて、そちらは全部で6シリーズ制作。その過程でデジタル連携の部に応募できるアイデアを思いついたため、デジタルに強い福田を誘い、新聞広告の部の制作と並行しながら約3カ月をかけて今作を制作しました。

福田:最初に声をかけてもらった時は、「新聞紙面のARマーカーを読み込むと、画像が浮かんだり音が鳴ったりする仕掛けにしたい」という漠然としたアイデアでしたが、朝日広告賞は初めての経験でしたし、面白そう、ぜひトライしてみたいと思い、ワクワクしながら参加しました。

岩波書店の課題『岩波 仏教辞典 第三版』を選んだ理由について。

岩田:『仏教辞典』に掲載されている仏教用語は、難しくとっつきにくそうですが、響きはリズミカル、字面はエキゾチックで、なんだかかっこいい。自分がもともと音楽が好きなこともあって、「仏教用語を音楽に乗せたら、もっとかっこよくなるかも……?」と思ったのがアイデアの出発点です。デジタル連携の部は、むしろデジタルとギャップがある商品の方が面白そうな気がしていたので、この課題と出合えて良かったです。

紙面にスマホをかざすと、ラップ調の仏教用語が聞こえてくる仕掛けです。ラップは岩田さんの声だと伺いました。岩田さんは俳人としてもご活躍(第66回角川俳句賞など受賞多数)ですが、ラッパーとしての活動も?

岩田:いえいえ(笑)。ただ、普段はコピーライターとしてことばと向き合い、俳人としても活動しているので、ことばの持つ魅力みたいなものを伝えられたらと思って、かなり頑張りました(笑)。バックに流れる音楽は、浦野が作曲しています。

浦野:普段から趣味で曲作りをしているんです。今作はスマホで簡単に音声を組み合わせたり、ビートを変えたりできるように、福田に設計してもらいました。

福田:ARマーカーやQRコードを読み込んでスマホで遊べる企画はたくさんありますが、今回はせっかく新聞広告を活用するので、スマホ側の操作があまり多くならないようにしようと4人で話しました。新聞とスマホを何度も行ったり来たりしながら、紙面の文字やビジュアルが自然と目に入ってくる仕掛けにしようと。

大森:制作の様子を端から見たら、怪しい集団だったと思います。ずっとラップ調の仏教用語を流しながら試作を重ねていましたから(笑)。

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新聞広告×デジタルの可能性を提示できた。新聞広告はもっと面白くなる

『岩波 仏教辞典 第三版』には、約5000項目の仏教用語などが収められています。紙面には仏像のイラストとともに、22項目の仏教用語が載っていますが、どのように選んだのですか?

岩田:辞典をめくりながら1個1個の単語を発音して、音の響きが面白そうな単語を選びました。「唵麼抳鉢訥銘吽(おんまにぱどめいうん)」「軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)」といったエキゾチックな響きの単語に加えて、誰もが知っていて“合いの手”になりそうな「僧(そう)」「煩悩(ぼんのう)」などの単語も織り交ぜています。

福田:当初は仏教にゆかりのある数字の33種の用語を並べる予定だったのですが、ARマーカーの大きさとの兼ね合いもあって、22個になったんです。ARマーカーのデザインは、大森さんが担当してくれました。

大森:QRコードを載せれば簡単ですが、紙面に何十個も並んだ時の見栄えを考慮し、梵字をモチーフにしてデザインしました。梵字は意味を含まない表音文字なので、アルファベットや○×のように扱える利点もありました。ちなみにARマーカーは小さすぎるとスマホで読み込むことができず、余白の分量などにもいろいろと制限があります。その制限の中でカッコよく、かつ誤認がないようにする必要があるのでなかなか苦労しましたが、みんなと相談しながらデザインを詰めていきました。紙面全体のアートディレクションや仏像のイラストは、浦野さんが担当しています。

浦野:仏像のイラストは、ヘッドホンでラップを聴きながらノリノリで踊っているイメージです。それぞれ違う動きにしたかったので、1体1体をイラストレーター (ドローソフト)で描きました。当初は33体載せる予定だったので、せっせと33通り。めちゃめちゃ大変でした(笑)。他に、もう少しポップなビジュアル案もあったのですが、一見してラップが聞こえてくるような、クラブシーンのようなトーンの方が良いという意見に落ち着き、黒を基調としたビジュアルになりました。

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デジタル連携の部にトライしたご感想と、この部門に応募する意義について聞かせてください。

岩田:デジタル連携の部はできたばかりの賞で、まだはっきりしたセオリーがないので、グランプリを“狙う”というよりは、無邪気に作りたいものを作りました。結果的に「オールドメディアの新聞×新しいデジタル技術」が「仏教×ラップ」にうまくはまったと思います。この部門への応募は、普段デジタルの仕事に携わる機会のないクリエーターが、テクノロジストとタッグを組む絶好の機会なのでは。僕自身、福田との共同作業はとても新鮮でした。

浦野:デジタル連携の部については、4人でよく「審査委員の方々を“楽しませたもん勝ち”だよね」と話していました。普段の業務ではできないことや、実験的なチャレンジができる賞だと思います。個人的には、ARを使った施策をしたことがなかったので、今回福田と一緒に制作する中で、デジタルと連携する時の考え方や進め方をいろいろと学ぶことができて、それが大きな収穫でした。

福田:今回の提案では、紙面のARを複数の仲間といろんな方向から読み込んで、音楽のセッションを楽しむこともできます。新聞の大きな紙面があるから実現できるアイデアで、デジタル単独の企画とはまた違った面白さがありました。

大森:新聞広告×デジタルの施策はまだ少ない気がしていて、今回は1つの可能性を提示できたのかなと思っています。新聞×デジタルならば、新聞を読まないと言われている若者世代の、スマホ中心のライフスタイルとの親和性も高いのでは。新聞広告×デジタルの施策が増えていくと、新聞広告はもっと面白くなると思います。

朝日広告賞にはどのような印象を持っていましたか?

岩田:佐藤雅彦さん、権八成裕さん、尾形真理子さんなど、第一線で活躍されている方々が若手の時に受賞していた賞なので、目標の一つにしてきました。

福田:若手のクリエーターがこぞって応募しているイメージがありました。デジタルの仕事が多い自分には、縁がない賞だと思っていたので、参加できてうれしかったです。グランプリ受賞後、社内で声をかけてもらう機会も増えました。

浦野:「朝日広告賞の受賞を機に、新しい仕事に挑戦できる機会が増えた」とおっしゃっている先輩方が多いので、「自分も頑張って獲るぞ!」と思ってチャレンジしました。グランプリ受賞を機に、私も新しいことに挑戦できたらうれしいです。

大森:今度は仕事でこのメンバーと一緒に制作できたらいいなと思っています。

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皆さんの現業での活動や、今後やってみたい仕事について聞かせてください。

岩田:現業ではクリエーティブチームの一員として、CM制作や企画のアクティベーションなどに携わっています。新聞広告はことばで勝負できるメディアなので、もっと手がけてみたいです。出版の分野にも興味があります。今回取り上げた岩波書店は、個人的に親しみのある出版社なので、仕事でも携わることができたらうれしいです。あと、音楽が好きなので、歌詞も書いてみたいです。

浦野:私の普段の仕事は、グラフィック制作や、話題化する施策のプランニングなどです。新聞広告は手がけたことがなくて、でも今回とても制作が楽しかったので、仕事でも新聞×デジタルに挑戦してみたいです。広告はともするとスルーされたり、邪魔にされたりしますが、見たら日々が楽しくなるような広告を作っていけたらと思います。

福田:僕は、メタバースの企画設計や、リアルイベントに付随するバーチャル施策などに携わっています。今作のように、デジタル体験を通じて遊んでもらいながら、商品の魅力を伝えていくような仕事に出合えたらいいなと思います。

大森:現業はデザインの仕事がメインで、新聞広告も多く手がけています。アートディレクションや、動画のモーションデザインにも携わっています。個人的には「歩くテーマパーク」を目指しているので、ジャンルを問わずワクワクするようなものを作り続けたいです。お仕事お待ちしております!

賞金の使い道は。

岩田:お礼参りで古寺巡礼をしたいので、中古の軽バン(ワンボックス型の軽自動車)を買います!

福田:3Dプリンターを買い換えたいです。最近すごく評判のいい製品が出たので。

浦野:アートブックや写真集を買いまくります。

大森:たくさんの人と飲み会をして交流を深めたいです。

<一般公募・デジタル連携の部>入賞作品一覧を見る
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