2022年度第71回朝日広告賞「一般公募・デジタル連携の部」グランプリは、講談社の課題「読書をテーマに子どもたちが喜び、興味を示すような新聞広告を!」を扱った作品。新聞広告を本棚に見立て、紙面にあるQRから絵本の世界へ飛べるアイデアを提案したのは、HAKUHODO DESIGN・デザイナー・大利光輝氏、TBWA HAKUHODO Disruption Lab 荒井チーム・コピーライター・德岡淳司氏、博報堂第一ブランドトランスフォーメーションクリエイティブ局・江口石下チーム・コピーライター・松村紘世氏。3人に話を聞きました。
グランプリ受賞のご感想は。
大利:うれしかったです。受賞の知らせは応募の代表者である自分のところに来ることになっていたので、連絡がある日はずっとソワソワしていました。僕たちは新聞広告の部にも複数応募していて、最初にそちらの入選の連絡があったんです。1つは新潮社の課題を扱った作品(作品タイトル/だれかが死ぬ気で書いたもの。)、もう1つはベルマーク教育助成財団の課題を扱った作品(作品タイトル/もったいない)でした。新潮社の課題を扱った作品については3人とも自信があって、上位をねらえるのではないかと話していました。一方、デジタル連携の部は新設の部門でどういう作品が評価されるのかわからなかったので、制作も手探りでした。
德岡:大利から新聞広告の部の結果の知らせを先にもらい、準グランプリ止まりだったかと少し残念に思っていたら、デジタル連携の部でグランプリという続報が入り、しばらく興奮が収まりませんでした。新しく複雑な広告手法が次々と生まれる中で、絵と言葉のかけ算だけで勝負できるのが新聞広告です。広告制作者にとっては基礎中の基礎スキルであるがゆえ、最も腕が試される場だと認識しています。そういう意味でも、朝日広告賞は欲しかった賞。受賞できてうれしいです。
松村:グランプリの知らせが来たのは、新聞広告の部の入選賞の知らせが来てから2時間後くらいで、ちょうど昼寝をしようと思っていたところに電話がかかってきました(笑)僕は2020年に入選をいただいています。以来、準朝日広告賞以上の賞を獲りたかったのですごくうれしいです。
3人で制作することになった経緯について聞かせてください。
大利:僕たちは今年で入社4年目の同期です。現業ではそれぞれ別の部署で仕事をしています。僕と德岡はたまたま家が近所で、せっかくだからお互いに応募したことがない朝日広告賞に挑戦してみようかという話になりました。僕と松村は同期であること以外に接点がなかったのですが、德岡が彼と日頃の交流があり、じゃあ3人で一緒にやろうかということになりました。
制作のプロセスについて聞かせてください。
大利:制作は新聞広告の部を先に行い、そちらは全部で15点制作しました。すべての作業が終わったのが締め切りの2日前です。そして最後の最後に、デジタル連携の部も応募しようということになったのです。応募に際してまず3人で議論したのは、デジタルだけでなく新聞広告を使うことにどんな意味があるのか、リアルな接点を作る意味は何なのか、ということです。ブレストしていく中で、紙の本や本棚の存在感は好きだが、部屋で場所を取るし、引っ越しのたびに運ぶのが大変。デジタルを活用すれば便利になっていいよねという話になり、「ペラペラほんだな」のアイデアに至りました。
德岡:出版社の課題が複数ある中で、僕たちのアイデアと相性が良かったのが、「子どもたちが喜び、興味を示す新聞広告」という講談社の課題です。紙面に載せた本のタイトルは、すべて講談社から出版されている児童書のタイトルです。コンセプトシートは、「ペラペラほんだな」という一言で伝わるネーミングと、使っているシーンが一目でわかるような絵で構成しました。
新聞を本棚に見立て、紙面にあるQRをスマートフォンやタブレット端末で読み取ると絵本が読めるという仕掛けでした。
松村:子どもが本に興味を持つきっかけは、もうそこに本があることっていうか…極力シンプルに考えました。実は僕自身はデジタルの知識が極めて薄いのですが、新聞紙である意味を考える上ではかえって良かったと思います。「一覧性があって現物を楽しめる・場所を取る」というアナログのメリット・デメリットと、「コンパクトでいつでもどこでも読める・現物を楽しめない」というデジタルのメリット・デメリットを補い合える提案になったと思います。
德岡:最近は広告の受けとり手がデジタル端末の扱いやARなどの楽しみ方を知っていることを前提にしたハイコンテクストなデジタル広告が増えています。それに対して今回の提案は、QRを読み取るだけの非常にシンプルな仕掛けです。僕も松村と同じくデジタルの知識が薄く、実装力がないだけに、企画力で一点突破したいという意識が強くありました。
新聞広告について、朝日広告賞について、それぞれどんなイメージを持っていますか?
大利:僕は美大生だった頃から紙を触りながらモノを作ることが好きだったので、体感として新聞広告に親しみがあります。朝日広告賞は大学時代から憧れていました。審査委員は錚々たる方々ですし、過去の受賞作品を見ても好きな作品が多いです。
德岡:今回の提案がもし実際に新聞に掲載されたら、数百万もの家庭に「ペラペラほんだな」が届く。そこがポスターやデジタルメディアとの大きな違いで、新聞広告でしか実現できないことだと思います。朝日広告賞については、広告の第一線で活躍している方々が受賞者に名を連ねているので、自分もそこに加わりたいという思いが応募のモチベーションでした。過去の作品集を大利と松村と一緒に見ながらあれこれ議論する時間も楽しかったです。
松村:物性があって手でさわれるところが新聞の価値であり、デジタル化が進むほどその価値は高まる気がします。今回の提案も、壁に貼った途端、別のプロダクトに変わるところに新聞ならでの面白さがあったと思います。朝日広告賞はシンプルにアイデアで勝負できる賞というイメージがあります。コピーの力が試せる場でもあるので、できればまた挑戦するかもしれないです。
3人でタッグを組んだご感想は。
大利:德岡も松村もアイデアの良し悪しに対する決断が早いので、企画がどんどんまとまっていく感覚がありました。それぞれ考え方が違いながらも、最終ゴールは同じ場所を目指せる3人だったと思います。
松村:決断の早さは大利もそうで、アイデアが膨大に積み重なって行く中でもスピーディーに答えを探していけるチームだったと思います。悩んで黙り込むような時間もなかったです。煮詰まったらすぐ飯に行ったのもよかったです(笑)
德岡:土日の時間を割いてせっかく集まるのだから楽しくやろうというスタンスの3人だったので、ストレスなく制作に臨むことができました。いいチームワークだったと思います。
皆さんの今後の活動について聞かせてください。
大利:現業では業務の5割くらいがマス広告の制作です。最近はメタバースなどデジタル空間上の施策が増えていて、業務の3割くらいを占めています。自分は美術やグラフィックデザインが好きで広告業界に入ったので、今後もそれを軸としながら、クライアントも自分もいいと思えるもの、納得できるものを作っていきたい。そして広告に限らず好きなフィールドを広げていきたいです。
德岡:僕は普段はCMやポスター、新聞広告、OOHなどの企画に携わっています。最近は映画制作やMV制作など本業以外で活躍する広告制作者が増えていますが、自分は本業でしっかり旗を立てたい。前例のないアイデアがある広告、書いたコピーが人の記憶に残るような広告を作っていけたらと思います。
松村:僕も德岡と同じくCMやポスター、新聞広告、OOHなどの企画に携わっています。心がけているのは、メディアに適したアイデア、このメディアだからやる意味があると思える広告づくりです。もちろんコピーライターとしていいコピーを書きたいというの思いは変わらずあります。新聞広告はコピーの力が生きるメディアなので、今後も携わっていきたいです。
賞金の使い道は。
德岡:3人ともアメリカに行ったことがないので、タイムズスクエアのカウントダウンに行こうと話しています。
大利:僕はスカイダイビングをやろうと提案したのですが、高い所が苦手な2人に却下されました(笑)。でもニューヨークも行ってみたかったので楽しみです。大通りをアメ車で走りたいです。
松村:僕は飛行機すら苦手で……、アメリカが初めてどころか、海外が初めて。でもせっかくなので、3人で楽しんできたいです。本場のハンバーガーを食べてきます(笑)。