2020年度 第69回 朝日広告賞<一般公募>は、富士急行の課題〈遊園地「富士急ハイランド」〉を扱った作品がグランプリを受賞しました。制作者の篠宮沙良さんは、現在多摩美術大学の3年生。応募作品は2年次の5月に制作したものだそうです。
グランプリを受賞した感想は。
ただただびっくりしています。実感がわかなくて、正直、今もフワフワしています(笑)。応募した作品は自分でも気に入っていて、授業でいい評価をいただいていたので、多少の自信はありました。でもまさかグランプリをいただけるとは思っていませんでした。
応募作品が授業でもいい評価を?
はい。実は、2年次の5月の授業で「富士急ハイランドをモチーフにビジュアルインパクトのある作品を作りなさい」という課題が出され、その時に制作した作品でした。専攻しているグラフィックデザイン学科では、2年次の終わりに朝日広告賞への応募を奨励しているのですが、2020年度の課題リストの中に富士急ハイランドを見つけて「これだ!」と思って、5月に制作した作品を提出しました。
「目」のビジュアルはどんな発想から生まれたのでしょう。
偶然にも、制作の3カ月前に富士急ハイランドに遊びに行っていたんです。絶叫マシーンに乗った時の体感を覚えていたので、「絶叫」をテーマにビジュアルを考えていきました。「目」のアイデアは、小さい頃から好きだったアメリカのカートゥーンアニメから着想しました。体がぺっちゃんこになるとか、アゴが大きくはずれるとか、物理法則を無視したカートゥーンアニメの誇張表現を「目」でやったらおもしろそうだなと。
審査委員からは「目は口ほどに物を言う」というコメントもありました。
まさにそんなイメージでした。だからコピーも入れませんでした。アトラクションを限定せず、富士急ハイランド全体を表すビジュアルにしたいという思いもありました。初めは全部イラストレーションにするつもりでしたが、それだとカートゥーンアニメの域を超えない気がしたので、目玉を撮影した写真をベースにして、iPad Pro上でイラストレーションツールを使って絵を描き足していきました。ベースにしたのは、私自身の目玉の写真です。思いっきり目を見開いて“自撮り”しました。最初から最後まで自分1人で完成させてみたかったんです。
表現的に工夫したことは。
最初はもう少しリアルな表現だったのですが、両親に見せたら「気持ち悪い」と言われてしまって。そこで、写真をぼかしたり、全体にノイズをかけたりして、グロテスクになりすぎないように調整しました。また、絶叫マシーンのスピード感や、風圧で起こる生理現象を、涙で表現しました。涙にピントが行くように、あえてウソっぽく、なおかつきれいな涙に見えるように仕上げたつもりです。結果的に、絶叫マシーンに乗った時の、ワクワクと恐怖が同時に襲ってくるような、快感と不快感が入り交じるような感覚とリンクする表現になったのではないかと思います。
「絵画的」という審査評もありました。
ファインアートには強い憧れがあって、アート寄りの表現をしたいという思いはありました。好きな画家は、カラヴァッジオや、アルフォンス・ミュシャ。劇的でストーリー性のある絵に惹かれます。
新聞メディアの特性をどう捉えていますか。
信頼感があるので、富士急ハイランドの広告が新聞に載っていたら、「信頼できる遊園地なんだな。行ってみたいな」という気持ちになると思います。好きな情報にアクセスするデジタルメディアと違って、興味のない情報もたくさん目に入ってくるメディアなので、そこに載る広告は、興味がない人の目も引きつけるようなアイデアやインパクトが大事なのだと思います。
将来はどのような道に進みたいと考えていますか。
まだ決めていないんです。広告業界、ゲーム業界、いろいろな分野に興味があって……。想像することが好きなので、想像を形にできるような仕事に就けたらいいなと思っています。
グランプリの賞金の使い道は。
ひとまず貯金して、通帳を眺めてニヤニヤしたい(笑)。ゆっくり使い道を考えて、大切に使わせていただきたいと思います。
朝日広告賞にはどのような印象がありましたか。
アイデアで勝負する広告賞というイメージがあります。できれば来年度もチャレンジしたいと思っています。
学生の応募者に、ひと言お願いします。
今回は好き嫌いが分かれると覚悟してチャレンジした作品で、それが評価されてすごくうれしかったです。学生は評価の場がどうしても学校内の小さなコミュニティーに限られてしまいます。広告賞は大勢の人の目に触れた上での評価なので、きっと自信につながると思います。