2020年度 第69回 朝日広告賞<広告主参加>グランプリは、としまえんの見開き全30段広告。としまえんが閉園する前日の朝刊に掲載。漫画「あしたのジョー」のラストシーンと「Thanks.」のひと言を通じて、感謝のラストメッセージを届けました。西武レクリエーション・代表取締役社長の依田龍也氏(出稿当時は株式会社豊島園社長)、西武園ゆうえんち・西武園事業部部長兼西武園ゆうえんち運営支配人の内田弘氏(出稿当時は株式会社豊島園事業運営部長)に話を聞きました。
広告を出稿した背景について。
依田:としまえんを運営する西武鉄道は、昨年6月12日、2020年8月31日をもってとしまえんを閉園すると発表しました。内部では閉園に向けて様々な準備が進んでいましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で臨時休園が続き、どう終わらせたらいいのか先が見えない状況でした。ただ、広告を通じて最後に感謝のメッセージを届けたいという思いは強く、長くとしまえんの広告制作を担当してきた博報堂クリエイティブディレクターの宮崎晋さんらと早くから準備を進めていました。
内田:広告の目的は本来集客ですが、それよりも何よりも、閉園に際してお客様に感謝の気持ちを伝えたいという思いがありました。としまえんは昔から広告に力を入れてきましたので、最後の広告も当然期待されるはずで、それに応えたいという気持ちも強かったです。
閉園までの社内はどんな雰囲気でしたか?
依田:8月31日までに少しでも開園できるチャンスがあれば、万全のコロナ対策でお客様をお迎えしようと、入園制限のためのネット予約や電話応対の拡充、遊具や施設の消毒、暑さ対策など、様々な取り組みを行っていました。6月15日から営業を再開した時は、どう受け止められるか不安でしたが、入園予約が殺到しました。入園されたお客様は、それぞれにとしまえんの思い出に浸り、残り少ないひとときを満喫していらっしゃいました。社員の士気は下がるどころか上がる一方で、日差しが強い日はテントを建てて日陰を作ったり、ミストシャワーを設置したりと、酷暑の中、まさに汗を流してお客様をお迎えしました。ですから全社一丸になってやれることをやり尽くしたという自負がありました。
制作チームとはどのようなやり取りをしたのでしょう。
内田:社内の懸命な取り組みを制作チームに伝えました。また、「密」を避けるために入場制限をせざるを得なかったので、入りたくても入れない方々にも感謝を伝えるにはどうしたらいいかと議論しました。いくつかアイデアが挙がった中から絞られたのが、「あしたのジョー」のアイデアです。やるだけやって、燃え尽きて、最後は真っ白な灰になって終わる。そんなイメージです。ちなみに、としまえんの社員の半数以上は、西武園ゆうえんちに異動して活躍しています。宮崎さんから「ジョーが死んだかどうかはわからない。口元の微笑みや紙面の余白に余韻を残している」と説明を受けて、なるほどと思いました。希望につながる終わりなんだなと。としまえんの広告はフフッと笑えるユーモアを得意としてきましたが、最後の広告は、見る人の想像に委ねるような広告になったと思います。
依田:「あしたのジョー」の原作者であるちばてつやさんは、としまえんがある練馬区に住んでいらっしゃるので、その情報を入れたらどうかという話もありました。結果的には、多くを語らず「Thanks.」の一言でかっこよく去る方がとしまえんらしいという意見で一致しました。
朝日新聞1紙での展開でした。
内田:としまえんは「史上最低の遊園地」をはじめ、話題の広告の多くを朝日新聞で展開してきました。近年は「カルーセルエルドラド」生誕110周年記念広告や、プール開きの告知にマリリン・モンローを起用した新聞広告を朝日新聞紙上で展開しています。そうしたご縁もあり、最後もとしまえんらしさを貫いた形です。掲載は閉園前日の8月30日でしたので、閉園当日は紙面をパネルに入れて園内に掲示しました。
依田:感謝の気持ちを手に取れる紙面として形にできたことは本当によかったと思います。掲載当日から翌日の閉園日にかけて、SNSで紙面の情報が拡散されたり、ニュースやワイドショーで取り上げられたりと、大きな反響がありました。また、園内にメッセージボードのコーナーを作っていたのですが、張り切れないほどのメッセージが寄せられました。閉園日は少なからず広告の影響があったと思います。
8月31日、としまえんの最後を打ち上げ花火が飾りました。
依田:入念に警備体制を整え、警察のご協力もいただいた上で打ち上げました。花火はとしまえんの名物でしたし、たとえコロナ禍であっても、それこそ燃え尽きるまでベストを尽くそうと、打ち上げを決めたのです。そして閉園後、社員全員で「フライングパイレーツ」「サイクロン」「カルーセルエルドラド」に乗って、としまえんとお別れしました。
内田:閉園日は、お客様と社員が家族のような一体感をもって最後のひとときを過ごし、涙で別れを惜しみました。閉園から1年以上が経った今でも、多くの方が正門付近に訪れ、写真を撮ったり、門を飾ってくださったりしています。そして、としまえんの社員の多くが西武園ゆうえんちに移り、新たなスタートを切りました。コロナ禍の中でどんなチャレンジができるか、試行錯誤しながら張り切って日々を過ごしています。としまえんで築いたようなお客様との関係を、西武園ゆうえんちでも築いていけたらと思っています。
改めて、グランプリを受賞した感想を聞かせてください。
依田:大変名誉なことだと思っています。としまえんを愛してくださった皆様に受賞のニュースが届き、としまえんの思い出をまた1つ増やしていただけるかと思うと感慨深いです。ありがとうございました。