2016年度 第65回 朝日広告賞<一般公募>受賞作品
2016年度 第65回
朝日広告賞<一般公募>受賞作品

2016年度 第65回 朝日広告賞<一般公募>のグランプリは、中性的な女子高校生の姿とその心のつぶやきを通じて、マンダムの男性用整髪料「ギャツビー」を訴求した作品が受賞した。制作者は、大阪の広告制作会社トーン・アップのアートディレクター・高須博さん。朝日広告賞に応募を続けて12年、初受賞がグランプリとなった。

LGBTという社会的なテーマをメッセージに込めた

ジャーナリスティックな新聞メディアで、社会的なテーマ「LGBT」を扱いたかったと語る高須さん
ジャーナリスティックな新聞メディアで、社会的なテーマ「LGBT」を扱いたかったと語る高須さん

12年前から毎年欠かさず朝日広告賞に応募してきたそうですね。

高須:20代前半の時に一度応募して、以後10年ほど応募していなかったのですが、広告制作のノウハウを覚えてからの挑戦に興味を覚えて応募を再開しました。でも、長いこと入賞すら叶わなくて……(笑)。今回ショートリストに残ったと分かった時は、それだけで満足でした。他の候補作品のレベルの高さを見て、今回も入賞はないなと思っていたんです。

グランプリを受賞した感想は。

高須:受賞を知らせるメールを読んだのが、お酒を飲みに行った帰りの電車の中だったのですが、うれしさよりも戸惑いの方が大きかったです。もちろん酔いは一気にさめました(笑)。職場の人たちも驚いていました。「作品を見せて」という前に「賞金なんぼ?」と聞いてくるあたりは、さすが関西人でしたね(笑)。

受賞作の制作の経緯について、聞かせてください。

高須:アイデアの種は、数年前に観た『Tomboy』というフランス映画です。主人公は男の子のようにふるまう10歳の女の子で、男の子の何げない日常をクールだと思って見ている子がいるのかと気づかされた映画です。朝日広告賞の課題リストの中にギャツビーを見つけた時、男の子になりたい女の子にとって、あこがれの日常アイテムではないかとピンときたんです。

審査委員の多くが、「LGBTを想起させる」という感想を述べていました。

高須:確かにそういう意図がありました。LGBTについての問題提起は以前は報道が中心でしたが、昨年あたりは巷にまでその意識が浸透してきていました。海外では、トランスジェンダーのモデルを起用したファッション広告なども生まれています。

今回制作した広告は、LGBTの心に踏み込んだ内容だったので、そこまでトガっていいものかと悩みましたが、ジャーナリスティックなメディアである新聞で社会的なテーマを扱うことに意義を感じました。

ビジュアルはどのように定まっていったのですか?

高須:当初は、学ランを着た女子高生が青空を背景に校庭にたたずむビジュアルを考えていました。でも、放課後の教室でこっそりギャツビーをつけて「オレ」になる、という方がリアルではないかと思い直し、あの表現に至りました。

ビジュアルはフォトコラージュです。顔と髪の毛、身体の中心、両肩から背景、それぞれ別の写真で、いわゆるストックフォトの素材を合成しています。自分が頭の中で思い描いた宝塚の男役みたいなキャラクターの学生さんを現実世界で見つけるのが難しかったからです。顔の部分で採用した方は、“目ヂカラ”と“過剰じゃない透明感”に惹かれました。ご本人は長髪ですが、ギャツビーでスタイリングした雰囲気に髪型を加工しました。ネクタイを結んでいる身体の中心部分は外国人の女性です。衿の開き方やネクタイのゆるみ具合にこだわりました。

コピーについて心がけたことは。

高須:奇をてらわず、素直な心の言葉を表現しました。「俺」という漢字を使いたくなかったので、「オレ」にして、バランスを取るために、「私」ではなく「ワタシ」にしました。写真の子が書いた雰囲気を出すため、文字は妻に書いてもらいました。

過去の受賞作の傾向として、ブランドロゴは画面の隅っこに小さく、というパターンが多いですが、ギャツビーのロゴは隅っこでささやくようなものではない気がして、センターに大きく配置しました。

好きなブランドというリアリティーがクリエーティブジャンプに

高須さんは、クリエーターへ、自分の受賞を励みにあきらめず応募し続けて欲しい、とエールを送る
高須さんは、クリエーターへ、自分の受賞を励みにあきらめず応募し続けて欲しい、とエールを送る

高須さんご自身は、ギャツビーを使ったことがありますか?

高須:ギャツビーは学生の頃から使い続けています。ですから制作していても感情移入しやすかったです。

これまでの応募を振り返ると、過去の受賞作から傾向と対策を探ったり、あまり本を読まないのに文庫の課題に取り組んだりと、どこかリアリティーがありませんでした。でも今回は、自分のライフスタイルになじみのある好きなブランドだったので、それが作品づくりのモチベーションになり、クリエーティブジャンプにつながったのかなと思います。

ふだんはどのような仕事が多いのですか?

高須:ふだんも主に新聞広告を手がけています。当社は広告製版も行っているので、様々な新聞広告を目にする機会があり、いつも刺激を受けています。新聞広告が広告メディアの中心に君臨していた時代にこの業界に入ったので、思い入れが強いんですよね。特に15段広告や30段広告はあこがれ。ふだん制作する機会がなかなかないので、朝日広告賞に思いをぶつけました。

朝日広告賞についてどのようなイメージがありますか?

高須:明確なコンセプトとメッセージ性がないと評価につながらないイメージがあります。単なる美しさや小手先のデザインは通用しないという……。数ある賞の中でも“別格”の賞だと思います。

今後、どのようなクリエーティブに取り組んでいきたいですか?

高須:若い頃はビジュアルの格好よさや派手さを追いかけましたが、今いちばん興味があるのは、費用対効果が明確に見える広告です。つまり、消費者に的確にコミットし、ダイレクトに販促や反響に結びつく広告。まだ答えは見つかっていませんが、新聞広告でそれができたら最高ですね。

次回の応募者にメッセージをお願いします。

高須:僕みたいな才能のないオッサンでも、あきらめずに根気よく応募していたら報われることもあるんだなと、励みにしていただけたらと思います(笑)。

また、朝日広告賞の受賞者は、以前は大手広告会社のクリエーターが多かったように思いますが、最近は学生さんや、僕のような制作会社に勤務する受賞者が増えている印象があります。ましてや僕の拠点は東京でなく大阪です。そういう意味でも励みにしてもらえたらうれしいですね。

<一般公募>入賞作品一覧を見る
\  SHARE  /

関連記事

写真:東京ガス作品

2016年度 第65回 朝日広告賞<広告主参加>受賞社インタビュー|ガス供給を支える現場社員の朴訥な想いを温かいタッチの木版画で伝えた企業広告

写真:水本真帆

2015年度 第64回 朝日広告賞<一般公募>受賞者インタビュー|文庫本を、物語の世界に通じる扉に見立てた3点シリーズ

page Top