2016年度 第65回 朝日広告賞<広告主参加>グランプリは、東京ガスの広告が受賞した。ガスの定期的な点検から非常時の緊急対応まで、安全に備え続ける同社の現場スタッフの姿を、牧野伊三夫氏の版画で表現した。東京ガス株式会社 広報部 広告グループ 広告担当部長の佐藤隆一氏に聞いた。
グランプリ受賞のご感想は。
佐藤:うれしい驚きでした。広告賞の中でも朝日広告賞は審査委員の顔ぶれを含めて特別な印象がありますので、大変名誉なことだと思っています。
東京ガスのロゴを大きく主張しない原稿でした。その意図は?
佐藤:ご存知の通り、今年4月から都市ガスの自由化が始まりました。他企業の新規参入がある中、弊社としては、選んでいただく判断材料を明確に示したいという思いがありました。それは、130年にも及ぶガスの安定供給と保安確保の実績です。
ただ、声高に自画自賛をしたくはありませんでした。むしろ陰で人々の生活を支えているガスのように過剰な主張をせず、じっくり内容を読んでもらって「やっぱり欠かせない」と感じていただけたら……。そんな思いを込めて、自由化直前のタイミングで出稿しました。
制作のプロセスについて教えてください。
佐藤:クリエーティブチームには、オリエンの時に「社員の顔が見える広告にして欲しい」とお願いしました。東京ガスが、安心・安全を人の手で支えてきたことを伝えたかったからです。これを受け止めたクリエーティブチームは、現場で働く人たちにインタビューを行い、リアルな生の声を集めてくれました。その中から、東日本大震災の時に連日ほぼ不眠不休でガスの復旧工事に携わった社員のエピソードを広告にしました。
牧野伊三夫氏の木版画を採用しました。
佐藤:意表をつく提案でしたが、人の温かみを伝えられる版画だと思いました。顔の表情が描かれたもう一案があったのですが、シルエットの方を採用しました。作業員の真面目さや無骨さが感じられる上、お客様に身近な作業員の姿を投影していただく余地を残せると考えたからです。
驚いたのは、牧野さんが実際に作業現場に足を運んでくださったこと。家の床下に潜って作業するスタッフを、地面に伏してのぞき込むようにしてスケッチしてくださいました。作業員へのインタビューも積極的にされていました。そうしたプロセスがあったからこそ、あの臨場感になったのだと思います。新聞の紙質との相性も抜群でした。
ボディーコピーに書かれているような、現場作業員とガス利用者との交流は、よくあることなのですか?
佐藤:そうですね。「迅速に工事にあたってくれてありがとう」と感謝してくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。その一方で、人の目に触れないところで作業を完遂する社員も多くいます。そうした現場に光を当てることで、インナーモチベーションにつなげるねらいもありました。
「東京ガスのひと」というコピーのひの字についた丸傍点や、作業員の心の火を思わせる青い炎がきいている、という審査委員評もありました。
佐藤:今回の題材は、ガス漏れなど万一の際に緊急出動して処置を行う「ガスライト24」というセクションの仕事です。ここで働く社員たちは、安心・安全を自分たちが守るという気概と誇りを持ち、技能伝承のためにマイスター制度を設けて日々研鑽を積んでいます。そんな彼らの情熱を届けたいという思いでした。
広告出稿後、どのような反響がありましたか?
佐藤:「絵の不思議さに惹かれてコピーを読んだら、とても感動する内容だった」「東京ガスの活動について改めて知ることができた」といった感想が寄せられました。思いのほか女性からの反響が多かったですね。
また、版画のモデルになった社員から、「広告づくりに参加できただけでもうれしかったのに、朝日広告賞のグランプリに輝いたと聞いて本当にうれしい」という声が届きました。現場の社員に社会的な評価を還元できたことが何よりの喜びでした。
コミュニケーション活動の今後の展望について聞かせてください。
佐藤:ガスの自由化により、企業のブランド価値が改めて問われることになると思います。安定供給・保安確保の実績とともに、現場で働く人たちの仕事ぶりや信頼性を、今後も伝えていきたいですね。