2015年度 第64回 朝日広告賞<広告主参加>受賞作品

2015年度 第64回 朝日広告賞<広告主参加>グランプリは、宝島社の広告が受賞した。ビジュアルのモチーフは、ジョン・エヴァレット・ミレイの名画「オフィーリア」。樹木希林さんが小川で死を迎えるオフィーリアを演じている。キャッチコピーは、「死ぬときぐらい好きにさせてよ」。長生きばかりが注目される日本の高齢化社会の中で、「いかに死ぬか」という問いを投げかけた企業広告だ。宝島社 広報課課長の山﨑あゆみ氏に聞いた。

広告を見た人に、考えるきっかけを提供したかった

グランプリと朝日新聞読者賞のW受賞です。

山﨑:グランプリの受賞はもちろん、読者賞の受賞もうれしい知らせでした。当社の企業広告は毎回物議を呼び、賛否両論、さまざまな意見や感想をいただきます。ですから読者賞というのは驚きでした。

確かに今回の広告は、例年に比べれば、否定的な感想が少なかったのです。誰もが当事者意識を持てるテーマだったからかもしれません。樹木希林さんのキャラクターの力も大きかったと思います。

広告にどのような思いを込めたのでしょう?

山﨑:それについては、あえて多くを語らないようにしています。というのも、広告を見た方が、自分の経験や知識と照らし合わせて、「これはどういうことだろう?」「何を伝えたいんだろう?」と考えるきっかけを提供することが、そもそもの出稿動機だからです。

明確に言えるのは、掲載メディアである新聞は、政治や経済など社会的な題材を記事面で扱い、その情報をお金を払って読みたいという意識の高い読者の方々が読んでいらっしゃる。そうした場で、商品だけでは伝えきれないメッセージを届けたいと考えています。今回は、「死生観」について問いかける内容となりました。報道番組やYahoo!ニュースのトップなどで取り上げられるなど、メディアの反響も非常に大きく、社会の関心事と合致していたのかなと思います。

クリエーティブ的に苦労したこと、工夫したことは?

山﨑:企業広告の制作は、毎回、社長の蓮見(清一氏)がクリエーティブチームと直接意見を交換しながら進めています。そのやり取りの中で、「いかに長く生きるかばかりが注目され、いかに死ぬかという視点が抜け落ちている。いかに死ぬかは、いかに生きるかと同じ」という話になり、クリエーティブチームから「樹木希林さん×ミレイの名画」というアイデアが示されました。

ボディーコピーは、当初は延命治療などにも触れた具体的な内容でしたが、より読者の想像力に委ねるような内容に落ち着きました。「人は死ねば宇宙の塵芥。せめて美しく輝く星になりたい」という一文は蓮見が考え、樹木さんがこれを気に入ってくださいました。「私がなるなら、星じゃなくて、塵かしら」とおっしゃっていましたが(笑)。樹木さんのご意見はそれくらいで、一切の注文なく今回の企画に身を投じてくださいました。

企業広告を18年続けてきたことが、確実に読者に届いている

1998年度 第47回 準朝日広告賞受賞作品
1998年度 第47回 準朝日広告賞受賞作品

ビジュアルは、フィルムカメラによる実写だそうですね。

山﨑:そうです。スタジオにセットを組んで、樹木さんには温水に入っていただきました。水面に浮かぶ花や緑も本物です。花は、「オフィーリア」に描かれた花をそのまま再現しつつ、一部、日本の花に変えたりもしています。「オフィーリア」で描かれる花々にはメッセージがあるとも言われているため、その花言葉についてお問い合わせくださる方もいらっしゃいました。

広告出稿後、どのような反響がありましたか?

山﨑:「死ぬことを考えることは、生きることを考えることなのだとハッとさせられた」「ハガキかポスターがあったら取り寄せたい」など、様々な意見や問い合わせが寄せられました。

掲載当日は、SNS上でもずいぶん話題となりました。また、SNSの普及とともに減っていた電話の問い合わせが、今回は多くありました。「広告の意図を聞きたい」「自分の考えを話したい」という方が多かったようです。

審査会では、「新聞記事では言えないようなことを伝えるんだという企業姿勢が感じられる」という意見がありました。

山﨑:言わないこと、見過ごしていることへの違和感や、新しい価値観の提供を大事にして商品を作っている企業風土が、企業広告にも現れていると思います。

長年にわたって企業広告を展開していることへの賞賛も多く寄せられました。

山﨑:それは本当にうれしいご意見です。SNS上でも、「宝島社の企業広告は、『おじいちゃんにも、セックスを。』(98年)という広告を見た時からずっと注目している」「宝島社が、また面白い広告を出した」といった書き込みがとても多く、18年の積み重ねが企業イメージとして定着してきたと実感しています。

コミュニケーション活動の今後の展望について聞かせてください。

山﨑:その時々に、企業として“今”伝えたいメッセージを発信することを大切にしています。企業理念は「人と社会を楽しく元気に」。今後も、良い意味で期待を裏切ることのできるメッセージを発信できればと考えています。

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