2025年度第74回朝日広告賞「一般公募・新聞広告の部」グランプリは、大塚製薬の課題「ポカリスエット」を扱った作品。思春期の“揺らぎ”を想像させるビジュアルとコピーが審査委員たちの心を打ちました。制作に携わったBBDO JAPANクリエイティブグループ・アソシエイトクリエイティブディレクター/コピーライターの山内優揮氏に話を聞きました。
グランプリ受賞のご感想は。
広告賞には19歳から挑戦していて、企画書も含めて応募作品数をずっとカウントし続けているのですが、今回の応募がちょうど1000ページ目の節目でした。グランプリは長年積み重ねてきたことのご褒美だと思っています。折しも受賞の知らせをいただいたのは息子が生まれて1000日目の記念日で、その偶然もうれしかったです。
課題選びのポイントは?
全課題を頭の中でシミュレーションした中で、いちばん作りたいと思ったのがポカリスエットの広告でした。新聞広告は時代を映す鏡です。ポカリスエットのようなロングセラーブランドは、今の時代と“接続し直す”ことがマーケティング的に重要で、新聞と相性がいいと感じて選びました。
応募作品の制作はすべて1人で?
コピーもグラフィックも1人で手がけました。人と組んでコンペに応募したこともあるのですが、今回は1人でと決めていました。というのも、ここ数年、仕事的には順調ながら、自分の中ではしっくりきていない感覚があって、それが今回の応募の時期にスッと晴れて「今ならいいものが作れる!」と思えたのです。なので、美術大学出身というわけでもないのですが、グラフィックも自分で手描きしました。
いろいろな青色が混ざった印象的なグラフィックでした。
画材はアクリルガッシュです。思春期の“揺らぎ”を表現したくて、絵の具そのままの色ではなくオリジナルの青色を何色も作りました。キャンバスに色を乗せ、スポンジなどでこすったり押しつけたりしながら、基本的には指で描いていきました。一晩かけて制作し、朝の6時10分に描き終えました。
作品に込めた思いをあらためて。
青色で表現したのは「可能性の大海原」です。最初は女の子が大海原にぷかぷかと漂っている姿を俯瞰でとらえた絵をイメージしてスケッチを始め、途中でもっと“意志”が伝わった方がいいと感じて、毅然と大海原に立ち向かう絵になりました。その一方で「この後ろ姿の女の子は大丈夫かな? 大海原に負けそうなのかな?」と心配になるようなニュアンスも込めました。彼女の右手に配置したポカリスエットのロゴは、ポカリスエットの商品そのものを意味していて、可能性の大海原に立ち向う女の子にそっと商品が寄り添うイメージです。
灰色の新聞をめくると、まずきれいな青色が目に飛び込んできて、次に文字に気付いて「何て書いてあるんだろう」と1行目を読み、さらに目を移して2行目を読む。その時間の流れを0コンマ何秒まで意識して文字のサイズや配置を決めました。文字の小ささは女の子の不安な心情を表しています。特に2行目の「ときどき負けそうになる。」は、誰にも聞かせるつもりのない彼女の“本音”なので、か細く消え入りそうな印象にしました。また、2行目の一見ネガティブな言葉をポジティブに切り返すことがしたくて、それができるのがポカリスエットという偉大なブランドだと思ったので、コピーの終着点としてポカリスエットのロゴを配置しました。
コピーはご自身の経験に基づいているのですか?
思春期の気持ちを題材としながら、自分自身や今の社会全体に当てはまる不安や揺らぎを表現したつもりです。私は脚本を書くこともあって「どう生きるか」ということに関心が強く、例えばBtoBの商材を扱う際もヒューマナイズして取り組むタイプです。AI時代におけるクリエイターを武士になぞらえて本を書こうと考えたこともありました。つまり新しい技術によっていろいろな可能性が広がる中、これまで自分が武器としてきた刀(能力やスキル)が役に立たなくなるかもしれない現実とどう向き合ったらいいのか。そうした不安を本作にも重ねています。
広告賞には19歳から挑戦しているというお話でしたが、広告に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?
小学生のときです。最寄り駅のOOHにイルカが泳いでいるビジュアルが掲げてあって、見上げるとイルカが空で泳いでいるように見えて、いつも「きれいだなぁ」と見惚れていました。それ以来広告が好きになり、とりわけ新聞広告は心に残るものが多く、部屋に貼ったりしていました。朝日広告賞を受賞した新聞広告などお気に入りの広告は額縁に入れて飾り、季節ごとに変えたりもしていました。
朝日広告賞以外でこれまでに広告賞の受賞は?
個人の受賞と仕事での受賞と合わせて10以上は受賞しています。ただ、ファイナリストが多くて、「ミスターファイナリスト」と呼ばれたこともあります(笑)。
朝日広告賞にはどのような印象を持っていましたか?
めちゃめちゃ憧れの賞で、そのぶん力が入りすぎてしまう賞でもありました。本作で届けたのは、人に伝えたくても上手く言えない「整理できない気持ち」です。こうした繊細な表現は「売り上げに直結するのか?」「ブランドスコアは上がるのか?」といった議論の中でハネられてしまいがちですが、朝日広告賞なら拾ってもらえるのでは……という期待がありました。ですから審査の場で「人間のゆらぎ」というコメントが出たと伺ってすごくうれしかったです。
新聞広告の媒体特性についてはどのような印象がありますか?
インクの匂い、紙の手触り、ページをめくる動きなど、身体感覚から伝わってくるものがありますし、自分のペースで紙面の世界に立ち止まり、長く滞在することもできる希有なメディアだと思います。作り手としては「行間で伝える」「単純化しない」ということができるメディアです。媒体への信頼度や読者のリテラシーの高さも魅力です。
現業では主にどのような活動を?
クリエーティブディレクターとしてコピーを書いたりデザインを企画したりとジャンルにとらわれず活動しています。周囲は私が「新聞広告オタク」だと知っているので、新聞広告の仕事を任されることも多いです。今回の受賞を糧に現業でも評価していただけるような新聞広告を作っていきたいです。
次回の応募者へのメッセージをお願いします。
過去の受賞作を見て自分を型にはめてしまわないことが大切だと思います。振り返ると私自身がそうで、自分を出し切ることにビビり過ぎていました。既存の提案への異議申し立てでもいいかもしれませんし、現実離れしたコンセプトカーを作るぐらい振り切った提案でもいいのではないでしょうか。その方が悔いが残らない気がします。
賞金の使い道は。
広告賞に応募するたびに夜な夜な制作に打ち込む私を支えてきてくれた妻を旅行に連れて行きたいと思います。
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