2021年度 第70回 朝日広告賞<一般公募>受賞作品
2021年度 第70回
朝日広告賞<一般公募>受賞作品

2021年度第70回朝日広告賞「一般公募の部」は、トンボ鉛筆の課題〈TOMBOWの文具のブランド広告〉を扱った作品がグランプリを受賞しました。制作に携わったのは、博報堂PR局・PR-X部・PRプラナー・統合プラナーの根本崚佑氏、多摩美術大学大学院グラフィックデザイン学科の岡田江里菜氏、東京大学大学院工学系研究科・建築学専攻の中村遼氏。大学時代からの友人という3人に話を聞きました。

博報堂PR局・PR-X部・PRプラナー・統合プラナーの根本崚佑氏、東京大学大学院工学系研究科・建築学専攻の中村遼氏、多摩美術大学大学院グラフィックデザイン学科の岡田江里菜氏

オンラインで煮詰まり、オフラインでアイデアが結実

グランプリ受賞のご感想は。

根本:小型広告賞の間違いではないかと不安になって、事務局に確認のメールをしてしまいました(笑)。PR関係の仕事をしている自分には縁遠い賞だと思っていたので、驚きとうれしさが同時にやって来たという感じです。

岡田:私も小型広告でグランプリを受賞できたことに驚いています。朝日広告賞は以前から応募したかった賞で、最初は1人で制作するつもりでした。根本さんから声をかけてもらったことで、自分1人では考えつかなかったアイデアを形にすることができたと思います。

中村:僕は建築設計事務所への就職が決まっているのですが、個人的にグラフィック作品を作ったり、ブランディングのコンペに応募したりと広告には強い関心があって、広告会社への就職も選択肢の一つにしていました。ですから受賞してうれしい気持ちと、広告の道を選ばなくて惜しいことをしたかなという気持ちの半々です(笑)。

小型広告の最高賞は朝日広告賞史上初です。

中村:実は僕たちは3つの案を提出していて、1つは見開き全30段広告、1つは7段広告、そしてもう1つが小型広告の案でした。正直言いますと、グランプリをねらっていたのは全30段の案でした。まさか小型広告の案でグランプリをいただけるとは。純粋に楽しい表現を追求し、ねらって作らなかったのがかえって良かったのかなと思います。

3人で制作することになった経緯について聞かせてください。

根本:僕がふたりを誘いました。コピーライターやデザイナーは社内にいますが、同じ部署で働いているわけではありませんし、どうせなら違う領域の人と組んでみたいと思い、大学で一緒だった中村君にまず声をかけました。建築だけでなく広告にも興味があると聞いていたからです。岡田さんは大学時代にSNS上でアートギャラリーを展開するプロジェクトを通じて知り合いました。彼女は企画もできてグラフィック表現もできる人なので、声をかけました。

制作のプロセスについて聞かせてください。

中村:4コマ漫画のアイデアに行き着くまでに何カ月もかかりました。当初から3人でおぼろげにイメージしていたのは、何かを書き足して完成する広告です。例えば、線を加えることで絵の中の人に迫る危険を回避できるとか、切れてしまっている赤い糸をつなげられるとか、絵に違和感を持たせて「書き足したい」と思わせるような仕掛けができないかと。ただ、捨てた案はどれも「鉛筆じゃなくてもいいよね」というアイデアだったと思います。

岡田:「違和感があって、書き足すことで完成する絵」について複数のアイデアが出たところで、私はそれを絵にしました。ただ、どの絵も答えが一つしかないところがつまらなく感じて、根本さんも中村さんも同じ意見でした。

根本:誰もがブランドの顔つきをパッと想像できるという観点からトンボ鉛筆の課題を選び、最初はコピーとグラフィックを組み合わせた大型広告の案も考えていました。ただ、悩んでいた期間はコロナ禍もあってオンラインでのやり取りだったんです。とうとう煮詰まって提出期限の間際に対面で話し合うことにして、この時に「読者一人ひとりの体験を通してトンボ鉛筆らしさを伝えられないだろうか。新聞広告らしい表現とは何だろう」と議論していく中で、誰ともなく4コマ漫画の案が出てきました。読者が自由に発想を膨らませて空白の1コマに書き込める仕掛けにすれば、想像や創作の原点といえる鉛筆の魅力が伝わるのではないかと。そこからの作業は速かったですね。4話の構成や、主人公の「とん坊」を軸とするストーリー展開などがあっさり決まっていきました。

新聞らしい表現を追求した

表現的に留意したことは。

岡田:絵が苦手な人でもつい書き足したくなるようなラフな鉛筆のタッチにして、いかにも新聞の4コマ漫画にありそうな絵柄を意識しました。朝日新聞で連載されていた4コマ漫画「サザエさん」の登場人物は海にちなんだ名前ですが、「とん坊」の登場人物は、主人公のとん坊をはじめ、「蛍」「バッ太」など虫にちなんだ名前にしています。

根本:「空白に自由に書き入れてください」と言葉を載せてしまうと説明過剰ですが、かといって何の説明もないと意図が伝わりにくい。そこで4コマの上に「作・あなた」と添えました。唯一コピーワークと言える部分です。また、4話の1つは、とん坊が母親に書いた物をプレゼントするストーリーです。これは母の日に掲載することを想定しています。母の日以外にも応用できる新聞の即時性をふまえたアイデアでした。

中村:空白の1コマに書き込むことで、マイナスだった感情がプラスに転じるようなストーリーを意識しました。僕は専門的に広告に携わっていない分、普段目にする広告に対して「こんな表現でいいのかな」「情報を見せつけられている気がして嫌だな」などと客観的に思うことが多くて、だからこそ「こういう広告なら自分も作ってみたい」と感じてもらえるような表現になるといいなと思っていました。デジタルメディアが普及する中で、紙は非効率なイメージがありますが、今回は新聞の紙の良さを伝えられる提案ができたと思います。そんなふうにプラスの方向に発想を転換できるような試みはどんな仕事においても可能だと思うので、これからも追求していきたいです。

朝日広告賞のイメージや、応募した感想を聞かせてください。

根本:朝日広告賞は、受賞作がSNS上で話題を集めるなど、広告業界だけでなく一般読者にも開かれた賞というイメージがあります。

中村:受賞作が新聞紙面で発表されるので、社会的なインパクトのある賞だと思います。自分自身、そこに魅力を感じて応募しました。

岡田:もともとアイデアを考えるのが好きでしたが、デザイン系のコンペでは「ビジュアル勝負」の作品を提出してきたので、アイデアを形にする機会がなかなかありませんでした。それに普段制作しているのは自分1人で完成させる作品ばかりです。今回チームでアイデアを形にする経験ができたことで、新境地が開けたような気がしています。

皆さんの今後の活動について。

根本:現業ではPRの企画を考えることが多いのですが、企画だけでなく表現のところまで関与できるようになったらいいなと思っています。今回の応募は一つの自信になると同時に、自分に足りない部分を知るきっかけにもなりました。これからも積極的に広告賞に応募して自分を磨いていけたらと思っています。

岡田:今回の共同作業を通じて、届けたい表現に合ったメディア選びや、メディアの特性に合った表現選びの大切さを学びました。職人的にグラフィックのクオリティーを追求してきたこれまでのやり方に加えて、グラフィックとアイデアを結びつけた作品づくりにも挑戦していこうと思います。

中村:自分は「人」に興味があって、空間の中で人が何を感じるか、空間によって人の行動やライフスタイルをどう変えられるかなど、空間を通じて人に働きかけるような仕事がしたいと思っています。それには建築的なアプローチだけではなく、広告的なアプローチも必要で、建築と広告というふたつの領域からできることを探っていきたいです。

賞金の使い道は。

根本:最近ひとり暮らしを始めたので、身の回りのものをそろえたいです(笑)。あと、賞金を3で割るとどうしても端数が出るので、3人でおいしいものを食べて端数をきれいに使い切りたいと思っています(笑)。

岡田:国内旅行の予定があるので、その旅費にあてるつもりです。残った分は卒業制作の制作費にしたいと思っています。

中村:この夏にヨーロッパ旅行を計画しているので、いいカメラを買って、旅先で美しい建築物をたくさん撮りたいです。

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