進藤博信

朝日広告賞受賞者の、受賞の頃のエピソードから現在の活躍までを紹介する『Now&Then』。今回は、第30回 朝日広告賞でグランプリを受賞した、アマナ代表取締役社長 兼 アマナグループCEOの進藤博信さん。進藤さんは1979年に起業し、フォトグラファーとして活躍しながら、写真がビジネスになることを体現してきた。現在は日本最大規模の総合ビジュアルコミュニケーションカンパニーであるアマナの経営に専念している。

進藤博信
進藤 博信(しんどう ひろのぶ) 1951年東京都生まれ。フリーランスのフォトグラファーを経て、79年、アマナの前身となるアーバンパブリシティを設立。87年にストックフォト事業を開始して以降、デジタル化に注力し、現在アマナは、動画やCG制作、コンテンツ制作なども取り扱う、総合ビジュアルコミュニケーションカンパニーへと発展を遂げている。

コンテンツマーケティングの先駆けのような受賞作品

画像:1981年 第30回 朝日広告賞 グランプリ受賞作品
1981年 第30回 朝日広告賞 グランプリ受賞作品

朝日広告賞を受賞したのは、1981年。広告写真の制作会社を設立して3年目で、会社が急成長していたタイミングでした。受賞作品の制作メンバーは、コピーライターのピート小林とアートディレクターの平谷俊夫、そして私の3人。日頃から広告制作の仕事を一緒に手がけていた、気心知れた仲間でした。

「曖昧模糊のウイスキー文化。」と題した企画は、ピートが考えたものです。ピートは米国カリフォルニア州でバーテンダーとして働いていたことがあり、そこでの体験が企画のベースになっています。カリフォルニアでは、お酒を混ぜたり、詰め替えたりして販売すると罰せられる法律があります。そのためバーテンダーは使用済みのボトルを割って処分しますが、その中にはサントリーリザーブもあったそうです。その事実を基にサントリーリザーブが外国製のウイスキーと遜色ない品質であり国際的な商品であることを、コピーとビジュアルで表現しています。

混ぜてはいけないというメッセージの「No,Marriage.」は、「No」という言葉を使った強いコピーなので、写真は逆光でシルエットを美しく撮影しようと考えました。「Yes, Breakage.」は、ボトルを割って処分することを肯定するコピーです。割れたボトルを撮影しようと考えましたが、サントリーリザーブのブランドが傷つかないように象徴的に表現するにはどうしたらいいか思案。最終的に、首をストンとカットしたボトルとハンマーを撮影しました。

ビジュアルとしてインパクトがありつつ、一目瞭然でストーリーも伝える。この二つを両立させることは、日頃から広告制作の仕事で実践していたので、さほど悩むこともありませんでした。そもそも、一つの広告で言えることは、たいてい一つです。言いたいことを詰め込みすぎるとインパクトがなくなります。

昨今は、企業自ら消費者のためになる情報を発信する「コンテンツマーケティング」に注目が集まっています。朝日広告賞を受賞した作品は、35年以上前に制作したものですが、力強いビジュアルの裏側に社会的なメッセージがある、コンテンツマーケティングの先駆けとも言えるのではないでしょうか。今でも通用するブランド広告だと思います。

グランプリの受賞は、自分のペースで思い通りの撮影をするという流れに拍車をかけた

画像:南麻布のオフィス
1981年、南麻布のオフィス。ファシリティーやロケーションもアマナの付加価値を感じられる空間に

25歳でフリーランスになったときから、主な情報源は新聞です。特に日経産業新聞は、カルチャー誌やファッション誌よりも興味深く読んでいました。商品の開発ストーリーやターゲットなど様々な業界のトレンドが手に取るように分かるからです。だから、たとえば新商品の広告制作でも、クライアントに的確な提案ができました。

そうすると、次の撮影では「進藤さんにお願いしたい」と指名され、自分のペースで思い通りの撮影ができるようになる。そんな理想的な流れに拍車をかけたのが、朝日広告賞の受賞でした。アートディレクターがつくるカンプで写真が入るところに斜め線が引かれ「フォトグラファー進藤」とだけ記載される。ビジュアルを私に一任してくれるクライアントが増えました。

振り返ってみると、私はもともと感性や感覚の「アート」と論理的な思考の「サイエンス」をバランスよく兼ね備えていたのだと思います。その背景にあるのが、学生時代にサッカーをしていた経験です。

サッカーの攻撃では、シュートをする瞬間を生み出すために、ディフェンスをする相手チームが思いもよらないクリエイティブな動きをしてスペースをつくります。ところが、相手チームにボールが渡った瞬間、今度はセオリー通りの動きに変わる。基本に忠実にディフェンスをして守ります。要するにサッカーは、右脳と左脳を試合中ずっと、使い分けるスポーツなんです。そうした経験が、フォトグラファーとしてだけでなく、会社経営にも生かされています。

アマナは自己実現の場。自ら考え、表現を磨き続ける仕組みで人が育つ

画像:現在の天王洲アイルのオフィス
現在の天王洲アイルのオフィス。昨年末にオープンしたamana squareはアマナのこだわりを感じる。アートギャラリーも併設されている

アマナグループは、人が中心の会社です。そして、表現への強いこだわりも持っています。表現力をひもとくと、企画力、クリエイティブ(制作)力、編集力、テクノロジー(技術)力、プロデュース(運営)力、人脈力の六つに分けられ、それぞれの総和が表現力になると考えています。ただし、この六つの力を平均的に持っている人は、なかなかいません。

だから、アマナグループでは、各自が好きなことや得意なことを担当し、「チームアマナ」として問題解決していくことを売りにしています。人は好きなことをしているときが、最も能力を発揮できる。だから社員にも「好き嫌いで仕事をしよう」と伝えています。

会社は「自己実現の場」であるべき、という信念から、アマナでは各自の表現力を発揮するための仕組みをたくさん用意しています。たとえば、年に1回、違う部署に異動したい人は自己申告ができ、キャリア採用をする前は社内公募を実施しています。社内外のネットワークを可視化できるデータベースもあり、最適なチームを組むことが可能です。

仕事をする環境「ファシリティ」にも力を入れています。理由は二つ。一つは、クライアントにアマナグループのレベルの高さを五感で感じてもらうこと。それを仕事でも担保するという思いを込めています。もう一つは、働いている人たちに「ファシリティ以上のアウトプット」を常に意識してもらうことです。アマナグループでは雑誌を発行したり、セミナーを開催したり、情報発信をしています。ファシリティも情報発信の一つという考えです。

受託の仕事だけをしていると、世の中のトレンドに後ろからついていくことになります。しかし、本当の意味で役に立つ存在になるためには、トレンドの半歩前を進む必要がある。アマナグループにとって情報発信は、トレンドについてスタッフ自ら考え、表現力を磨き続けるための仕組みです。朝日広告賞も、若手クリエイターが新聞広告のクリエイティブについて自ら考える素晴らしい仕組みであり、だからこそ、私のように受賞後に飛躍できるクリエイターを多数生み出してこれたのだと考えています。

Q&A

Q    写真家に必要な資質とは。

表現力の基となるイマジネーションを磨くには、五感を鍛える必要があります。それと同時にイマジネーションを形にするためには、物理的な問題を解決するプロデュース能力も不可欠です。イマジネーションを膨らませることと、イマジネーションを現実のものにするためのプロデュース能力。この二つは、写真家が活躍する上で必要不可欠な能力だと思います。

Q   朝日広告賞とは。

フォトグラファーとして多忙な時期に受賞しました。正直に言うと、あと2年早かったら、もっとステップアップするのが楽だったはずです。実際、朝日広告賞を受賞したことで、ビジュアルを一任されることが格段に増えました。これまで以上にクライアントから信頼されるようになり、会社の知名度も上がりました。

Message for young creators

人々は何に感動するのか。時代を読むことが大切!―― 「新聞広告は時代のメッセージです。世の中の価値観が多様化している今は、自分の信じている世界観を新聞広告として表現するのがいいと思います。朝日広告賞の一般公募の部に応募する方は、自分が心から共感できるクライアントを選ぶべきですし、日頃の仕事でも同様のことが言えます。ただ、人の心に響く表現は時代とともに変わります。次の時代、人々は何に感動するのか。時代を読むことも大切です。

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