2018年度 第67回 朝日広告賞<一般公募>受賞作品
2018年度 第67回
朝日広告賞<一般公募>受賞作品

2018年度 第67回 朝日広告賞<一般公募>は、パナソニックの課題「乾電池エボルタNEO」を扱った作品がグランプリを受賞しました。制作者の長岡華子さんは、多摩美術大学 美術学部 グラフィックデザイン学科の4年生。卒業後は、広告の仕事に携わっていきたいと語っています。

ワンビジュアルで伝わる「一発ギャグ」を目指した

制作者の長岡華子さん

乾電池の長寿命を、ガイコツとの対比で表現

グランプリを受賞した感想は。

夢じゃないかと思いました(笑)。

応募した経緯について、教えてください。

大学の授業を通じて広告に興味を持ったのがきっかけです。応募は今回が初めて。朝日広告賞には「アイデアを評価する賞」というイメージを持っていました。学生にとっては大きな賞ですし、ぜひ挑戦したいなと。

応募に際しては、広告主や課題にこだわらず30案ほどアイデアスケッチを描き、いちばんいいと思った1案に絞って完成させ、提出しました。

どのような思考プロセスを経て、提出作のアイデアに至ったのでしょう。

課題としたパナソニックの乾電池の商品特性は、長持ちすること。それをどうやって視覚的に伝えられるかと考え、「劣化していく物」や「形をとどめない物」と対比したらどうかと思いつきました。

対比するなら、電池そのものよりも、電池によって機能する道具、たとえば光り続ける懐中電灯の方が、より視覚的に伝わりやすい。懐中電灯の傍らにあって劣化しやすいものといえば……と考えていき、ガイコツのアイデアに行き着きました。

制作はどのように進めていきましたか。

スケッチを何枚も描きました。ガイコツを引きのアングルで描いたり、顔に寄ったアングルで描いたり……。絵のタッチも、「ゆるイラスト風」はどうか、「ヘタウマ風」はどうか、模型を写真に撮ったらどうか、などといろいろ考えました。

結局、水彩絵の具で描いたリアルなタッチがいちばんアイデアに適していると思い、骨格標本や洞窟の写真を参考にしながら、自分なりにイメージを膨らませて描きました。リアルさが足りないのは、私の画力の限界です(苦笑)。でも、リアルになり過ぎなかったことで、ちょっとしたゆるさ、ギャグっぽさが出て、かえってよかったかなと思っています。Photoshopで多少いじっていますが、コントラストを調整した程度です。

他の課題と並行しながら作業を進めたので、アイデアを思いついてから完成までに5カ月ほど要しました。実制作にかかった時間は、だいたい10時間くらいだったと思います。

イラストと商品写真のみで、コピーは入っていませんね。

右下に配置した乾電池の写真は、原寸大です。コピーを入れなかったのは、入れないほうが言いたいことが伝わると思ったからです。

実際、「コピーがなくても電池が長寿命であることをイラストが十分に伝えている」という評価が多かったです。

うれしいです。私は朝日新聞の愛読者なのですが、広告に関しては、息抜きができたり、ハッとできたりするものを見たいと思うので、最初に考えた30案も含めて、ワンビジュアルで伝わる「一発ギャグ」的な表現を目指しました。

卒業後は、広告の道に進みたい

もともとイラストを描くのが好きだったのですか?

描くのは好きですが、なりたいのはイラストレーターではなく、企画やディレクションができるデザイナーです。ですから今は、見る目を養うことに努めています。実際の仕事は自分の手を動かすだけでは完結しませんし、企画に適したカメラマンやイラストレーターを見つけられるかどうか、といったことも大事になってくると思うので。

創作において影響を受けた人はいますか。

自分の人格や性格を形成しているのは「アンパンマン」です。作品はもちろん、作者である、やなせたかしさんの生き方そのものに勇気をもらいました。

やなせさんは遅咲きの作家さんで、「アンパンマン」がヒットしたのは50歳を過ぎてから。「アンパンマン」は当初は大人世代から批判されたそうですが、子どもたちから絶大な支持を得て、世界中で愛されるようになりました。やなせさんは、だからといっておごることなく「子どもたちのために」という姿勢を終生貫かれた。誰かのためになる仕事を何歳になっても続けたいと思わせてくれた方です。

長岡さんがデザインの道に進もうと思ったのは、いつ頃のことですか?

私は高校を2カ月で辞めて、しばらくは毎日家でゲームをして過ごしていました。その後、アルバイトをしながら高卒認定試験に合格。アルバイトを始めて2年半ほど経った時に「社長になりたい」と思って、もともと絵を描くのが好きだったので、貯めていたアルバイト代を使って美大受験の予備校に通いました。そして2度目の受験で多摩美に合格しました。

そもそもなぜ「社長になりたい」と?

市民プールの受付のアルバイトをしていたのですが、事務や営業の仕事にも少し携わり、経理や広報など別の部署の人とつきあう機会もありました。どの仕事も楽しく感じられて、全部やりたいんだったら社長だな、と思ったんです(笑)。私の父が自営業であることも大きかったと思います。

グランプリの賞金の使い道は。

学費です。美大の学費は高いんです(笑)。私が高校を辞めてから美大に入るまでの間、両親はずっと見守ってくれました。美大に入ることにも反対せず、学費を払ってくれました。今回の受賞もすごく喜んでくれています。

来春に卒業予定です。どんな進路を考えていますか。

私は大学に入って初めて広告デザインというものを知りました。入学した頃の私は頭が固く、先生からはよく「作品は丁寧だが、おもしろくない」と指摘され、私自身もそう感じていました。殻を破りたいと思っていた時に広告の授業に出会い、先生のご指導のおかげでその楽しさに目覚めました。広告において大切なのは、自分の主観よりも、万人に届くメッセージを発想できるかどうか。それができたらすばらしいなと。また、広告は幅広い領域に精通していないと作れません。いろんなことをやりたい私にとっては、そうしたことも引かれる要素でした。

私にとっての仕事の価値は、誰かを笑顔にすること。今回の受賞を励みに、見た人がクスッと笑えたり、楽しい気持ちになれたりするような広告を作っていけたらいいなと思っています。

<一般公募>入賞作品一覧を見る
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