時田侑季さん × 副田高行さん

2015年10月14日、朝日広告賞審査委員と受賞者による3回目のトークライブ(AAA Talk)が、女子美術大学・杉並キャンパスで開催されました。今回のお話は、審査委員・副田高行さんと受賞者・時田侑季さん。現在、アートディレクターとして活躍されている副田高行さんは、朝日広告賞の審査委員であると同時に、実は、1976年の朝日広告賞グランプリ受賞者でもあります。今回は副田さんの「朝日広告賞応募のおすすめ」からトークが始まりました。

副田高行さん
副田高行さん(アートディレクター) 時に力強く、時に優しく、いつも美しく。「シャープAQUOSシリーズ」「トヨタエコプロジェクト・ReBORNキャンペーン」などで多彩なアートワークを展開。
時田侑季さん
時田侑季さん(アートディレクター) フリーランスのデザイナーとして活動後、2008年株式会社Imaginarium(イマジナリウム)を設立、代表取締役。アートディレクター。デザイナー。

朝日広告賞は、新聞広告の枠を超えて表現することを許された場所

朝日広告賞の受賞が転機だったと語る副田さん
朝日広告賞の受賞は人生の転機だったと語る副田さん

副田:副田高行です。もうずいぶん長い間、広告の仕事をしています。今日は皆さんに、朝日広告賞に応募してください、というお願いをしに来ました(笑い)。

もう、40年近く昔の話になるのですが、今日ご一緒させていただいている時田さんと同様、僕も朝日広告賞でグランプリを受賞しました。当時、まだ若かった僕は、デザイナーとして世に出たものの、どの分野に進むのか、明確な目標が持てずにいました。

朝日広告賞への応募動機は、「広告」という分野への挑戦、とも言い換えることができると思います。広告という世界で自分の力は評価されるのか、また、そこで生きていくことに、自分は喜びを見いだせるのかを知りたかった。

2度目の応募で、僕は幸運にも朝日広告賞の中で最高の賞をいただき、そのことが、大手と呼ばれるデザイン会社の入社に導いてくれました。今、自分が広告業界でこの位置につけているのは、朝日広告賞の存在があったからだと、僕はそのように感じています。

時田さんは、今回が初めての朝日広告賞応募だとうかがいましたが。

時田:はい、そうです。入賞作品に使用したおばあさんの写真は、友人の写真家が撮ったもので、出会った瞬間、私は恋に落ちてしまいました。その時受けた印象を、言葉で表現するのはとても難しいのですが、生命力とも、また、破壊力とも呼べる圧倒的な何かです。しかし、一目惚れをして譲り受けた写真ではあったものの、具体的に何に使うかイメージが掴めぬまま、日常の仕事に忙殺される日々が続きました。

朝日広告賞の募集広告を目にしたのは、ほんとうに偶然でした。そして、その瞬間にひらめいたのです。この写真は、新聞広告に使ってこそ面白いのではないか、と。

副田:本当に、興味をそそられる写真ですよね。

朝日広告賞は、審査も最終段階に差しかかると、それぞれの審査委員が自らの見解を述べ、時には議論することも辞さないのですが、時田さんの作品に関しては、審査委員の評価が真っ二つに分かれました。10人余の審査委員がどれだけ意見を戦わせようとも結論が出ない。

しかし、逆に言うとそれだけ注目された作品であったからこそ、朝日広告賞の頂点まで上り詰めることができたのだ、とも言えると思います。朝日広告賞とは、今ある新聞広告の“枠”を超えて表現することを許された場所であり、だからこそ、グランプリを受賞する作品も、それを感じさせる何かを持っていなければならなかった。

作品づくりをしている間は、どこまでも自由だった

受賞作品についての思いを語る時田さん
受賞作品への思いを語る時田さん

時田:クライアントから依頼されて着手するものづくりは、私も、依頼内容がはらんでいる問題というものに、まず目を向けます。そして、クライアントが抱えるそれらの課題に対し、自分は作り手として、どのような改善に向けてのアプローチができるかを考えます。普段行っている、こういったものづくりの流れから見ると、受賞作品を作りあげた過程は、全く異なったものでした。

今手元に、自分の魅せられた一枚の写真がある、それが、全ての始まりでした。そして、クライアントをかたわらにしてとりかかる普段の仕事とは異なり、この作品を作りあげていく過程には、普段の仕事につきまとう制約が何もなかった。

だからこそ、クリエーターとして、私はどこまでも自由で、今から振り返っても、作品づくりに携わっていたあの時間は、とても幸せだったと思います。

副田:そうですよね。業界の第一線にいる審査委員でさえ解釈に苦しんだこの広告を受け入れてくれるクライアントはそう簡単に現れるものではないと思います(笑い)。

デザイナーとして、世の中にどう貢献できるかを考える

時田:今日は副田さんに、ぜひうかがってみたいことがあります。日々のクライアントワークで、一番大切にされていることは何ですか。

副田:名声であったり、富であったりというものが、働く目的であった時代もありました。しかし今は、デザイナーとして自分は社会にどう貢献できるか、を考えることが多くなりました。年をとり、「我の欲求」が薄れたということもあるのだと思います。

ただ、いま風景としてとらえられる人工的なものの中で、デザイナーが携わらずにかたちを持ったものなどないと思うのです。そう考えるとデザイナーは、この日本の光景を変える力を備えているということになる。それは、とても素晴らしいことである、と僕は考えています。

今日、会場に集まってくださっている皆さんは、誰もが若く、これからいかようにもそういった光景を色づけできる未来を持っている。ですから、これから皆さんが、デザインという観点から、日本をより良い国にしていってくれることを僕は期待したい。今後、社会から求められる人材も、そのような志を内に秘めた人物であるのではないかと思っています。

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