時田侑季さん × 浅葉克己さん

2015年9月25日から1週間、「2014年度 第63回 朝日広告賞入賞作品展」が桑沢デザイン研究所で開催されました。その最終日の10月1日、一般公募の部で朝日広告賞を受賞した時田侑季さんと、朝日広告賞の審査委員を務める浅葉克己さんのトークライブ(AAA Talk)が行われました。会場に集まってくれたのは、これからのクリエーティブ業界を担う桑沢デザイン研究所の学生たち。おふたりの気さくなトークに、会場は時に笑いにつつまれ、朝日広告賞に入賞することが、自分たちの未来にどういった光をもたらすのか、若者たちは真剣に耳を傾けていました。

浅葉克己さん
浅葉克己さん(アートディレクター) 広告制作、CMからグラフィックまで多分野のデザインを手掛ける。トンパ文字の研究家としても知られている。ADCグランプリ、旭日小綬章など受賞歴多数。アートディレクター。
時田侑季さん
時田侑季さん(アートディレクター) フリーランスのデザイナーとして活動後、2008年株式会社Imaginarium(イマジナリウム)を設立、代表取締役。アートディレクター。デザイナー。

審査委員の意見が真っ二つに分かれた最終審査

トークライブは桑沢デザイン研究所で開催された
トークライブは桑沢デザイン研究所の多目的ホールで行われた

ーー まず時田さんに質問です。朝日広告賞を受賞したときの感想を教えていただけますか。

時田:広告賞に応募したのは今回が初めてです。自分の中では、朝日広告賞に作品を提出しただけで満足していたところもあったので、受賞の知らせをいただいたときは本当に驚きました。

ーー 朝日広告賞に応募した動機は何だったんでしょう?

時田:友人であるフォトグラファーが、彼女の祖母を撮った写真に一目ぼれし、譲り受けたのが5年前。それから、何かに使いたいと思い続けていたものの、明確な目的が見つからず、ただ時間だけが過ぎていきました。そんな時、偶然見つけた朝日広告賞募集広告で、この写真は新聞広告に使用したら面白いのではないか、とひらめいたのが応募のきっかけです。

ーー 浅葉さん、審査の様子はいかがでしたか。

浅葉:朝日広告賞は、毎年予選が大変なんです。今回は応募作品が1,117点あり、その中から3人の審査委員で、予選を通過する384作品を選びました。

その後、やっと本審査が始まります。新聞広告ですから、コピーなども重要な審査ポイントの一つです。今回は、最終審査の段階で審査委員の意見が真っ二つに分かれました。 ひとつは新聞広告の王道とも呼べる、準朝日広告賞をとったキッコーマンの作品。もうひとつは時田さんの、実に、あやしい作品。

結果としては一票差で、時田さんの作品がグランプリを勝ち取りました。

ーー 審査委員のみなさんの反応は、実際、どうだったのでしょうか。

浅葉:ある意味、ショックでしたね。何年も温めておいた写真、というだけあると思います。 毎日いろいろなものを見て、気に入ったものをためておく。そういうことは、クリエーターにとってとても大切なことだと思います。

作品づくりに重要なものは自分ではコントロールできない「何か」

ーー 時田さん、贈呈式では、審査委員の小山薫堂さんの講評が非常に厳しかったとうかがいました。

時田:そうですね。小山さんには、贈呈式で開口一番「僕は大反対だった」と言われました(笑い)。

一方で「クリエーターが生み出した作品は、誰と出会うかでその価値が決定づけられる」とおっしゃっていて、その言葉にはとても共感しました。 私たちが手掛ける作品は、世に出て行くまでの、ご縁だったり、タイミングだったり、自分ではコントロールできない部分が、とても重要だと私も強く感じています。

ーー 浅葉さんはどのような感想でしたか。

浅葉:このコピーは自分で書かれたんですよね。
時田:はい。

浅葉: コピーは大事なんです。 僕は若いころライトパブリシティにいたんですが、土屋耕一さんとか、向秀男さんとか、いいコピーライターに恵まれていたので、コピーにはとても思い入れがあるんです。コピーとビジュアルの溶け込み具合が、広告の一番面白いところで、デザインとコピーの両方を手掛けられたというところが素晴らしいですね。

受賞がもたらした心の変化

ーー 時田さん、受賞前と後で、何か変化はありましたか。

時田:目に見えるかたちでの変化というものは、あまりありませんでした。しかし、自分自身の内面には大きな変化がもたらされたと思っています。 自分自身の感性や考え方に対して、以前よりずっと信頼をおけるようになりました。

ーー 受賞後の時田さんのインタビュー記事で「感性を信じる仕事」という言葉を目にしたのですが、これからどういったデザインや仕事をされていきたいと思っていますか。

時田:私はイマジナリウムという、小さなデザイン会社を経営しているのですが、クライアントもまた、小さな会社の経営者ということが非常に多くあります。そのような中で先日、とても印象的な出会いがありました。

そのクライアントはビューティークリエーターとして働いているのですが、まるで、感性の塊のような人でした。彼女と仕事をご一緒する日々は、とても楽しく充実していて、その時私は、自分自身が感性やインスピレーションを信じている人と仕事がしたい、と願っていたことに気づいたのです。

朝日広告賞受賞の知らせを受けたのはちょうどそのようなときで、この受賞作品は、本当に自分の感性のみで何にもしばられることなく作ったので、自分自身の感性を信じていいんだという大きな自信につながりました。

これからは、一緒に仕事がしたいと思える「自らの感性を信じて生きている人たち」と、見る人の心に響くものづくりをしていきたいと思っています。

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